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講談社BOX:BOX-AiR新人賞 全作品講評

講談社BOX Everything is Boxed, KODANSHA BOX. OPEN NOW!!

第十九回BOX-AiR新人賞全講評

『ずっとあなたが好きだった』

 文章は落ち着いており、ところどころの心情や風景の描写には読ませるものがある。しかし肝心の内容が追い付いていない。優子の幽霊を出せなどとは言わないが、表面的なラブストーリーを支える謎なり、別な道具立てなりが必要。

『trick the heart』

 何度か応募してきてくれている作者だが、毎回着実に力をつけている。大分ぎこちなさが抜けてきたが、しかし、まだ説明的だし、情報の提示の仕方も混乱している。サーカスが怖いのは一般的な知識、そこに恩人に会いに行きたいのは主人公なのだから、そういうときには思い切って視点人物を変えた書き方をしたほうがよい。

『俺の二次元彼女がリアルになった』

 横書きの美少女ゲームのテキストをそのまま縦書きにしたようだ。だがゲームはイラストや音楽で内容を補強できるが、小説では文章だけなので厳しい。キャラクターはかわいいのだが、物語を盛り上げるレベルに至っていない。

『俺と天才的な彼女達』

 特殊な才能を持つヒロインたちに囲まれ、奇怪な殺人事件に巻き込まれる––それは良いとしても、目新しさがなく、それを補えるほどの卓越した文章力があるわけでもない。人称や視点が何度もぶれ、登場人物が増えるに連れて描写が甘くなっている点には特に注意する必要がある。「姉の友達に養われる」という関係にはかなり惹かれた。異質であるがゆえのズレた生き方を魅力的に描けるようになれば面白い。

『トワイライトガールズ』

 インパクトのある書き出しはよいが、それをあとで語り直す部分がかなり混乱している。そこそこ入り組んだ設定は、多少野暮ったく思えても、きちんと早い段階でわかりやすく説明してほしい。

『民話ボーイ×民話ガール』

 一文一文なら読めるのだが、パラグラフレベルではぎこちない。冒頭で主人公〜ヒロインと順に登場させたあとに主人公の描写に戻ってしまったり、会話→描写→会話→描写とぎこちない文章が続いたりするので、スムーズに没入出来ないのだ。語彙や知識が水準に達していないとは思えないので、段落ごと、章ごとの完成度を意識すれば大分改善されるのではないか。しかし、仮に文章を直したとしても至らぬ点は多い。世界各国の民話を比較するのは別に壮大な実験ではないし(そのような比較を行う研究は膨大な数に上る)、竜神の神話のようなごくありきたりのものに高校生が「素直に感動」しているのはかなり特殊なことのように思えるが、その蓋然性の欠如をフォローし切れてはいない。

『神×霊×サマー』

 文章に落ち着きがあり、安心して読んでいくことができた。風景描写や情景描写に臨場感があり、必要な情報が適切なリズムで与えられているという印象。怪異やら心霊やらという設定の作り方や、それを部活動でまとめあげるという方針は凡庸であり既視感があると言わざるをえない。とはいえ民俗学という切り口もあり、全体として一貫した作品になる可能性は高い。

『ノイズ』

 ハッキングの描写に面白みがあるが、人間関係の把握がかなり面倒くさい。涼音の属性をもっと早い段階でもう少し露骨に明かすか、逆に謎の人物による謎のハッキングであるかのように演出するなどしたほうが、人間関係は掴みやすくなるはずだ。

『ジャノメ』

 戦闘用義眼「ジャノメ」の持ち主同士が殺し合うアクション小説としては楽しく読めた。スバルたちの過去も、ジャノメに関する説明も分かりやすく、好感の持てる出来である。だが、作品の世界設定がよく分からない。シノプシスを読む限りでは、あくまで基盤は現代社会で、その上にアカデミー等の設定が乗せられているようだが、一話・二話を読んでも現代社会との関わりが希薄で掴み辛い。下手に米国の諜報機関や特殊部隊を出して陳腐化してしまうのもまずいが、雰囲気を醸し出す努力も必要だ。

『A.I.–アドバンスド・アイドル–』

 力を入れて書いたようには思うが、問題点が多い。作品は梗概ではないのだから、あらすじじみたことをだらだらと書くべきではなく、叙述で展開を作ってほしい。内容の道具立てはありきたりな民間傭兵もので、昔のゲームのノベライズのようで、新味がない。

『押井桃子が夢を見なくなるまで』

 地に足の着いた異世界描写は実に生活感があってよかった。それが現代人の見ている夢である、という仕掛けは、その異世界描写の良さに比べると平凡。とはいえ現代世界のヒロインの描写も上手く、地力は感じさせる。優れた描写とシームレスにつながっていくような仕掛け・テーマを見つけられれば。

『サイボーグのいた夏』

 あまりに短く、またシノプシスにも後半の展開が描かれていないため、評価し辛い。読みやすい文章ではある。

『Vampy Party Squeeze』

 組版の力は凄いが、肝心の内容は凡庸な設定をイメージ先行で配置しているという印象。バトルだ吸血鬼だ妖怪だという道具立てはありきたりで、逆にこういったジャンルの中で差別化を図るのは難しく、そこまでの個性はなかった。

『A.D.2222』

 古臭いと言えば非常に古臭い星間戦争モノだが、書きぶりは非常に手馴れていて読ませる。とはいえ、一冊まとめて読ませてもらえればあるいは面白いのかもしれないが、この長さではインパクト不足の感が拭えない。

『Dolls do.』

 冒頭でぐっと引き込まれたのだが、次第に理解が追いつかなくなっていった。現代日本と少々異なる世界を、違和感を残しつつ描写するのは上手いが、読み進めるにつれて説明の荒さが目立ち始める。作者の頭の中では完璧に理解されていることが、外に出た途端独りよがりな言葉の羅列になってしまう典型例だ。難解な語彙や一話ラストの捻りの効いた展開を見るに、知的なエンタメになるポテンシャルはある。持ち味を殺さないよう注意しつつ、「高校生なら理解出来る」くらいのラインを意識して書いてみてはどうだろう。

『Symphonic ∽ Qualia』

 まず誤字脱字が多い。きちんと推敲がされておらず、読者に読んでもらうことを考えていないという印象。内容も空疎で、だらだらと文章が進むだけ。人物が叫んでいるだけで情報量が少なく、進行が単調。設定も詰めが甘く、見せ方が考えられていない。

『一新紀元を画す論文と俺という伝説』

 スパイが奪い合うような論文のイメージがいまひとつあやふや。そこのリアリティは作品全体の説得力を大きく左右する。もう少ししっかりした描写・設定が欲しいところ。

『前立戦隊ボッキンジャー』

 さりげなく女性の貧困問題に触れるあたり、現代社会の抱える問題を正確に捉えてはいるのだろうが、そのような点がどうしようもなく真面目過ぎてバカやお下品に徹し切れていない。いや、もちろんエロは真剣に語るべき問題ではある。たとえばEDやエイズや身売りはとても真剣に取り扱う必要がある。ただ、それと「TYPE–美姫Ⅱ」のようなキレッキレのエロ系造語との食い合わせは大層悪く、笑うに笑えないシーンが頻繁に出てくる。もし頭の悪いエロが難しいのだとしたら、イロモノ臭の薄い戦隊物を書いた方が面白い作品になると思うのだが。

『ROUTE ––どんな出来事も 僕らの物語の通過点でしかない––』

 古臭い宇宙もの。別にこのジャンルが悪いわけではないが、内容として今書かれなければならない意義は感じられなかった。物語としても単調で、強烈なキャラクターがいるわけでもなく、全体として既存の似通った作品との差別化ができていない。

『首だけ彼女』

 首だけの彼女というアイデアはインパクト十分だが、しかしそこまで。首だけならではの展開がないため、アイデアの奇抜さだけが浮いて見えてしまう。アイデアを生かすとは、設定や展開とアイデアのつながりを必然的であるかのように見せることだ。

『小さな武蔵の独行道』

 歴史を知る人間が過去に介入する、あるいは攻略法を知る人間がゲームの世界に転生するチート系小説、いわゆる小説投稿サイトなどで連載されている作品のように感じた。幼女と化した宮本武蔵を筆頭に特徴的な喋り方をするロリが登場し、軽快に話が進んでいくため、読みながらほとんど負担を感じることもない。とはいえ、二話終盤の解決は投げやりであったし、シノプシスを読んでも全体を上手くまとめきれるという確信は得られなかった。

『アイズ・フォー・ファングス』

 優れた視力という能力の設定の仕方はなかなか上手い。文章力もありすらすらと読んでいくことができた。だが全体としての冷静さ・こなれ方が逆に問題で、読者を巻き込む勢いや強烈な物語上の起伏が乏しく、作品が小さくまとまっている印象となった。

『交わし屋』

「XX屋」と呼ばれる男女六人の運命がひとつの狙撃事件の現場を中心に交錯する、というアイデアは非常に面白い。が、その六人の設定や描写がちょっと荒唐無稽過ぎて受け入れがたい部分が多々。

『軽薄な運命との向き合い方』

 他を押しのけて受賞するほどのポテンシャルは感じなかったが、なかなかに滾った。魔人討伐で生計を立てる少年と現職刑事のタッグというのはそれだけで熱くなる組み合わせである。欲を言えば、異能を持たない警察側が経験と知恵と力を駆使してサポートにあたる、といったシーンも読んでみたい。単純なパワーバトルだけではすぐに手詰まりになってしまうだろうから、そこには注意を払いたい。

『稀代の青年と比類なき少女の無明剣』

 文章が野暮ったく、気取っているので、読んでいていちいち苛付いてしまう。妖魔狩りという道具立ても別段目新しいところがない。キャラクターもこういう作品にはこういう人物があるだろうという読者の想像の範囲内に留まっている。

『決闘:リバースプラン』

 舞台となる世界が現実の現代日本とは違う、ということをもう少し描写レベルで強調してもらいたい。普通の現代劇のような始まり方で戦争や英雄の話にすぐ映ってしまうのは違和感が大きい。

『マジシャンの王国』

 セカイ系異能バトル物としてはさほど飛び抜けたものではない、といった印象を受けた。少年期に特有の不安定さは描けており、勢いと設定で読ませる力はあるものの、それ以外の構成要素に不安が残る。たとえば、仮に宿主のような存在が現れたとしても、ほんの数日で世界が激変するほどの事態に陥るとは考えにくい。異能というIFを現代社会で発芽させたら社会はどのように変容するか? シミュレーションをしっかりやればぐっとレベルが上がるだろう。

『コレクティアード』

「何らかのコレクターしか住んでいない街」という設定が興味深く、話に引き込まれた。冒頭で主人公がピンチに陥る展開もうまい。著者の奇抜な想像力にSF小説のおもしろさを感じた。ただ、コレクターの定義があいまいに感じられたことや、主人公の推理に納得がいかず、引っかかってしまったのが残念。また、もう少し感情移入して読めるような主人公だったらよかったと思う。

『ビフォアライト。アフターダーク、』

 本題に入るのが遅すぎる。主人公とヒロインの出会い、イベントで組まされること、主人公のヒロインへの思い、これらをもっとコンパクトに1話の中に詰め込むことはできなかったか。1話の内容が希薄過ぎる。

『我輩は猫であるっ!』

 ポテンシャルは感じるのだが、いまいちその良さを把握しきれなかった。猫の面をかぶって学園闘争を行うという絵面は間違いなく画面映えするだろうし、E助の父の設定などにも伏線を感じるのだが、シノプシスを読んでもそれらが綺麗に結びつくビジョンが見えなかった。アクの強いキャラクターが揃う学園物特有のどたばた感は大変好ましいが、文章で読むとどうしても散漫である。

『Broken Japan』

 タイトルや導入が陳腐。煽り立てるようなシーン描写が唐突で、しかもひとりよがりな言葉遣いの形容が混じっているため、読者はしらけてしまう。状況描写で物語の背景を示したいところを、普通に説明してしまうなど、物語に没入することが難しい要素ばかりが目立つ。

『流鏑馬少女』

 流鏑馬という題材が面白い。また、その流鏑馬に巧く絡めた主人公とヒロインの出会いも実に巧い。アイデアと展開がきちんと結びついており、この先を読んでみたいと強く思わされた。

『サンライト×フルムーン』

 才能があるのに周りの環境次第で全く正反対の道を辿ることもあるというテーマ性と、それを前提としたキャラクター造形、トラウマ解決型のストーリー、いずれも素直であり、新しさはないが受け入れやすい。ただし、
「彼女は、俺の背中に向かって、そんな言葉を投げつけた。彼女は振り返り、俺の背中を睨みつける。俺は逃げたつもりはない。関わりたくないと思っただけだ。俺は仕方なく立ち止まると、彼女を見た。彼女は俺を真っ直ぐ見つめながら、口を開く」
 このような文章が多いので、まずは不要な語句を削ること。視点を固定し、行動を細部に至るまで丁寧に写し取ろうとする癖を意識的に押さえるだけで見違えるように変わるはず。

『皇帝マシマシ野菜多め』

 チャレンジングな形式をとっているが、成功していない。歴史的名辞を羅列するばかりで何をしたいのか分からない。ネタとして見るにしてもそこまで面白くボケられているとも思えない。

『世界の終わりの修学旅行』

「滅亡を前にした世界で最後の修学旅行に出かける少年少女」とまとめれば少し懐かしい感じさえする終末モノ。既視感は拭えないが、終末に関する設定が人間ドラマに独特の絡み方をしており、読ませる。

『バロウズ』

 群像劇を書こうとする努力は伝わってくるが、各場面がどうも細切れになり過ぎており、もう少し意味のあるごとに区切った方が良いのではないかと感じた。

『フォールスシアター』

 人として色々駄目な探偵と最強の刑事など、キャラクター造形には目を引かれるが、構成の初歩で躓いている。
 探偵小説を書こうというには、あまりにも文章力が追い付いていない。単発の文章と発話で話をつなごうとすることをやめ、着実な描写を積み重ねることを求めたい。あらすじから想定される情報量と本編の内容に乖離があり、作品として空疎である。

『sAINT in white』

 アバドンの犯罪行為がどういう動機に基づくのかがわからな過ぎる。シノプシスを読む限り、あまり同情の余地があるとも思えない。魔法学校卒業者の就職難という社会問題と絡んでいる様子もなく、全体としてこれはなんの話なんだろうかという疑問が拭えなかった。

『martial murder machine』

 疲れた殺し屋と心のない殺人機械(美少女)、そして詩的な文章……と題材の選択は非常にオーソドックス。ポエム力も高い。後は描写力さえ付いてくれば言うことはないが、説明と場面転換がスムーズではなく、読みながら何度も引っかかってしまった。機械に油を差すように推敲を重ねてほしい。

『クラゲの食堂』

 アニメ向きとは言い難いが独特の文章に艶がある。温度や触感が伝わってくるような文章が、一文一文を読んでいく中で自然と情景を噛み締めさせる。くらげを一つのメタファーにするような透明な文章の中で、繊細な人間関係が描かれている。病の対処やトラウマといった物語上の力学も、一定の割合で働いている。

『シークレットサークル』

 化物を退治する秘密チーム、という設定は本当にありふれている。そのような設定の作品の中で、これは何が新しいのか、それがきちんと提示できていない。この作品ならではの部分が欲しい。

『無名ドキュメント』

 魔女を自称する少女が「自分を『魔女』だと思い込んでいる」のではなく、実は……という設定は捻りがあって面白かった。この自称癖の設定を上手く利用すれば優れた連作短編集に仕上がるのでは、という予感はある。
 ただ、主人公が毎日ファミレスに通って仲良しグループと謎の面白会話を繰り広げている理由がよく分からず、しかも分からないまま話が進むので、さも途中から観劇しているようなモヤモヤが終始付きまとった。むろん、仲良し四人組が集まるのに理由はいらないし、恐らくその理由も最終的には明かされるのだろうけど、この四人組のような特殊な関係なら説明があった方が安心するのではないか。どんでん返し狙いならその説明をひっくり返してもいい。

『結び人』

 夢の描写から始まるが、イメージ先行という印象は拭えない。構成が弱く、起きたことを順番に並べているだけで、読者をひきつけるようなメリハリに乏しい。設定レベルでも現状では思いつきという段階に留まっている。キャラクターも弱い。

『十三事談』

 1話の段階で話に動きがなさすぎる。謎の転校生が来るのならば、1話の最後でその実態を主人公に明示してやるくらいのペースがちょうどいい。緩やかな進行は連載形式には向かない。

『Dear エピローグ –トワとワガママな物語たち–』

 マンガにするとかなり面白くなるのだが、文章ではそのおもしろさが伝わってこない。読みとった情報を脳内のギャグマンガデータベースに落とし込み、ビジュアルを想像してようやく魅力が腑に落ちる、という感じだろうか。無駄なワンステップを踏ませず、まずは文章のみで笑わせて欲しい。
 物語の登場人物が作者にケチを付けに行く、という展開自体は悪くないが、綴じる物語の一つ一つをいい加減に設定していないだろうか。メタ的な立場からお約束に茶々を入れつつ話を進めるのはいいが、グダらせるためにも、基盤がある程度出来ていないと上っ面だけをなぞった薄っぺらいものになる。その危惧を跳ね返してくれるだけの地力は感じない。

『花が♀咲く∞』

 ある種の「萌え」シチュエーションが連発しているが、滑っている。日常シーンは単なる日常以上のものではない。かけあいも野暮ったく描写力に問題がある。異世界の要素に関わる部分は練り込みが弱く、必然性に乏しい。暗号も謎解き要素に乏しく、内容となる文章も陳腐でつまらない。

『大罪のディスグレイヴ』

 黙示録といい、妹を助けるために悪魔と契約する主人公といい、道具立てに既視感がありすぎる。読者が慣れ親しんだ題材と言えば聞こえはいいが、要は平凡で古臭いということ。その平凡さ、古臭さを超える魅力は残念ながら感じられなかった。

『AlONE』

 主人公の記憶喪失から始まり、突然暴徒の群に襲われる……ゾンビ物パニック小説の類型を忠実になぞっており、悪くない。ただ、状況説明が不十分なままにひたすら進めるには描写の一つ一つに説得力がない。

『クリスマスくるしみます』

 独特の描写力があり、読者を驚かせるような展開の作り方もできつつある。日常描写やかけあいもきちんとしたものである。ホルモンとクリスマスを結びつけるのも目新しい。皿田視点で描かれる関係で彼の情報が先行しているが、この中でもう少しサンタ教団の存在感を強調して構成すれば、筋の通った作品としてまとまるだろう。

『アパテーのるつぼ』

 設定の面白さ、奇抜さはある作品だが、その設定の良さが具体的な描写にいまひとつ反映されておらず、説明的になってしまっている。異様な風景をイメージしているらしいことはわかるが、その異様さを文章で伝えることに失敗している。

『黄昏時に会いましょう』

 江戸時代の藩主が現代の高校生に憑依するという設定は素晴らしく、冒頭数ページで一気に引き込まれるのだが、今のところ老藩主の行動が江戸と現代のギャップで笑いを取る方向にしか生きておらず、単なる青春異能バトルに終わってしまいそうな予感もする。つまり、老藩主である必然性が薄い。作品自体の完成度は非常に高いので、老藩主の知恵が生きるような展開になるなら大いに期待出来る。

『銘々の願い』

 タイトルは悪いが導入が面白い。願いを叶えてあげる人物がある種の主人公という点では、有名な先行作品が存在しており、既視感こそ否めないものの、叶えてもらう人物よりは目新しく感じた。読者の意表をつく言葉がテンポよく繰り出されてくるので、読んでいて楽しい。ザッピング的な要素があり複数のタイムラインがあることも動きがあって面白い。観察眼もあり、文章に安定感がある。

『未世界の不文律』

 世界創造の話を描こうとする気概は伝わってくるのだが、ひたすらに描写が平坦で長く感じる。また、視点士フルーがどのような人間なのかも伝わらず、キャラを掴みづらい。とはいえ創世に関わる様々な職業設定や、突然分身を始めたパパなど、神話的なロマンを追い求める読者からすれば心をくすぐられる設定は多い。このオリジナリティを失わず、童話的な味わいのあるエンターテインメントに仕立てられれば面白いのだが。

『Goddes』

 各エピソードのラストで死体が出てくるという構成はいいのだが、最初の死体が登場する前、つまり第1話の部分がまだ何も起こっていない退屈な話になってしまっている。そこにヒロインをもっと強く印象付けるためのなんらかの仕掛けなどがあればいいのだが。