講談社BOOK倶楽部

講談社BOX:日日日&ゆずはらとしゆきの与太話放談〈龍〉

講談社BOX Everything is Boxed, KODANSHA BOX. OPEN NOW!!

講談社BOX『日日日&ゆずはらとしゆきの与太話放談〈龍〉』前半分

まえがき

 以下の対談、『日日日&ゆずはらとしゆきの与太話放談〈龍〉』は、本来は『平安残酷物語』『のばらセックス』発売記念対談、ということで、発売直前(2011年秋くらい)に収録したのですが、いろいろと諸事情ありまして、お蔵入りになっておりました。
 収録から1年以上が経過しておりますので、若干の加筆修正とか注釈とか入れておりますが、基本的には、当時のろくでもない発言のままです。
 内容的には、日日日、ゆずはらとしゆき、あと、講談社BOX編集部の「誰か」が、二冊同時進行の最終校了が終わった安堵感丸出しで、講談社BOXの会議室でお茶とか菓子とかをムシャムシャ頬張りながら、『平安残酷物語』『のばらセックス』制作にまつわる苦労話やら、ライトノベル業界のドス黒い裏話(?)やら、心底どうでもいい与太話を延々としております。
まー、物好きなひとだけ読んでくださいー。

登場人物

▼日日日(あきら)

日日日 高校時代にいろんな新人賞を受賞してデビュー以来、すごいペースで書き続けている筆の早い作家。2013年でデビュー8年目なのに、まだ20代。代表作は『狂乱家族日記』とか、『ささみさん@がんばらない』とか、『ビスケット・フランケンシュタイン』とか、たくさんあります。
 講談社BOXでは、主に『平安残酷物語』『のばらセックス』『図書館パラセクト』の〈日日日×千葉サドル〉シリーズを書いております。

▼ゆずはらとしゆき

ゆずはらとしゆき いろいろと職業を転々としてどさくさ紛れでデビュー以来、なんとか書き続けている筆の遅い作家。
 講談社BOXでは、toi8さんのイラストで『空想東京百景』シリーズを書いておりますが、器用貧乏が祟って、レーベル内レーベル〈パノラマ観光公社〉名義で〈日日日×千葉サドル〉シリーズや、石田敦子さん『姉さんゴーホーム』の企画編集も担当。あと、この対談の構成も。

▼編集部

 中のひとは主に、ゆずはらさんの二代目担当編集(妻帯者)ですが、たまに別のひとも発言しております。

ゆずはらとしゆきゆずはらとしゆき(以下、ゆずはら):このたびは、2冊同時刊行、おつかれさまでした!

日日日日日日:いえいえ、ゆずはらさんこそ、おつかれさまでした! でも、『平安残酷物語』の毎日新聞『まんたんブロード』連載分とか、書いたのがずいぶん前というか、もう全然覚えてないですよ。そして、書き下ろし部分との間が長かった分、原稿が際限なく膨れ上がってしまいました。連載分は70ページなのに、書き下ろし分が370ページ……「アホか」というか、「なんであんなに書いたんだろう?」というくらいの量ですが。

ゆずはらとしゆきゆずはら:受け取ってびっくりしましたが、なんでそんなことに。

日日日日日日:話数で計算していたんですよね。最終的にすべて合体させたら、えらい量になってしまいました。計算を間違えました。

ゆずはらとしゆきゆずはら:ぼくだったら3〜4年分の原稿量です。まー、それだけ書き下ろしが多いということなので、連載時に読んでいた方々も満足していただけるのではないかと。

日日日日日日:そういうことにしておきましょう。

ゆずはらとしゆきゆずはら:登場キャラクターも増えていますしね。

日日日日日日:正直、何年も前の話だから、新キャラ作らないと回せなかったんですよねー。「あれ、このキャラクター、どんな喋り方だったっけな〜」とか、読み直す所から始めましたから。

ゆずはらとしゆきゆずはら:連載って、何年前でしたっけ? ぼくはその頃、一介の読者だったんですけど。

日日日日日日:MF文庫Jの2作目……『魔女の生徒会長』とかやってた頃だから、5年くらい前ですかね。あの頃はいろんな作風を試していて、スラッシュで区切って、マンガのコマ割り的なアクションシーンとか書いていました。『平安』もその一環で、ショートショートという依頼でしたので、ちょっとスプラッターな話をやってみようか、と。【※01】

ゆずはらとしゆきゆずはら:日日日さんの前は、新城(カズマ)さんでしたけど、まー、何の参考にもならないですしね。やってることがハイレベルすぎて。

日日日日日日:『マルジナリアの妙薬』は、連載を始める前に全部読んだんですけど、正直、「どうすればいいの?」って思いました!【※02】

ゆずはらとしゆきゆずはら:そうそう、「なんでこんな実験小説が、中高生向けの新聞に載ってるの?」というか。

日日日日日日:面白いんだけど、絶対に真似出来ない。その後釜だったので、当時は結構、プレッシャーでしたよー。

【※01】『まんたんブロード』は毎日新聞社が刊行していたフリーペーパー。『平安残酷物語』連載終盤にwebへ移行して、現在、紙媒体としては休刊しています。『平安残酷物語』は2008年5月号から一年ほど連載され、単行本の序盤に入っているエピソードが連載分になります。ちなみに、『魔女の生徒会長』は2007年10月からの刊行で、全5巻でした。

【※02】『マルジナリアの妙薬』は『平安残酷物語』の前に新城カズマさんが『まんたんブロード』に連載していた小説です。連載時のイラストは箸井地図さんが担当していました。単行本は早川書房から出ています。めっさシンプルな装丁です。

日日日さん、講談社BOXに参戦する

ゆずはらとしゆきゆずはら:で、なんで講談社BOXから『平安残酷物語』が出ることになったのか、という話なんですが。

日日日日日日:本当は別の出版社からから出る、という話があったんですよね。ただ、それが上手く行かなくて。

ゆずはらとしゆきゆずはら:『まんたんブロード』のweb移行やら何やらで、毎日新聞社では単行本にならないから、他社から出るという話は聞いていました。

日日日日日日:でも、そのまんたんの担当さんも毎日を辞めるという話になって、どうなるんだろう、と思ったまま、しばらく放置プレイになっていたんですね。あの頃、腐るほど仕事抱えてて、ラノベが4シリーズとかあると、それだけであっという間に1年潰れるんですよね。

ゆずはらとしゆきゆずはら:そりゃそうでしょう……。以前、ライトノベルの作家別ページ数統計を年度別で調べている研究サイト、というのを見たんですが、常に日日日さんと西尾(維新)さんが上位に入ってましたからねえ。

日日日日日日:面白いのが『境界線上のホライゾン』の川上稔さんで、冊数はぼくの方が多いんですけど、書いたページ数はあっちの方が断然多いんですよ。

ゆずはらとしゆきゆずはら:一冊で1000ページ超えますからねえ。だから、年2冊出るだけで一気に逆転されるという。

日日日日日日:あれをやれるのは川上さんだけです。あれをやりたいと思うのも川上さんだけです。

ゆずはらとしゆきゆずはら:西尾さんは『終わりのクロニクル』最終巻が1000ページ超えた時、「先を越された!」とか言ってましたけど……。いったい何を競っているんだ、あのひとたち……。まー、話を戻しますと、たまたま、件の担当さんから、正式に「毎日新聞社を辞めます」と連絡を受けた時に「そういえば、日日日さんと新城さんの連載って、何処で単行本になるんですか?」と訊いたら、「新城さんは早川書房から出るけど、日日日さんは宙に浮いてしまいました」とか言われたんで、「だったら、講談社BOX、紹介してもいいですか?」という話になったんですね。ちょうど、日日日さんと講談社BOXの組み合わせに支障がなくなっていたので。

日日日日日日:まー、そんな感じで、レーベルの混乱に乗じて……いえ、いろいろと奇跡のような巡り合わせがありまして、講談社BOXさんで書かせていただくことになりました。

ゆずはらとしゆきゆずはら:綺麗にまとめようとしておりますが(笑)……この頃、講談社BOXから暖簾分けみたいな感じで星海社が独立することになりまして。それで、『ファウスト』時代から書いていたゼロ年代前半デビュー組の作家さんがすべて移籍して、講談社BOXには西尾さんとぼくしか残っていない、という事情があったんですね。

日日日日日日:ぼくとゆずはらさんが編集部で打ち合わせたのは、いつでしたっけ?

ゆずはらとしゆきゆずはら:2009年の秋だったかな? 星海社が正式に独立したのは2010年ですけど、ぼくの初代担当さんが初代部長を退いた時点で、移籍組の新規企画はなくなっていたので、『うみねこのなく頃に』『428』のノベライズがメインになっていましたね。

日日日日日日:傍から観ていると、西尾さんの『物語』シリーズが好調だったから、そんな印象はなかったんですけどね。

ゆずはらとしゆきゆずはら:若い世代の読者さんは確保できていたんですけどね。内情はシャア級のエースパイロット(西尾さん)と、無名の古参兵(ぼく)を除くと、学徒動員の新人兵しかいないア・バオア・クー防衛戦、みたいな緊急事態になっていて。でも、ぼくは『こちら葛飾区亀有公園前派出所』の日暮さん級の遅筆だから、4年に1回くらいしか単行本が出ない……。

日日日日日日:登場すれば票は取れるけど、めったに出ないという縛りがあるんですね(笑)。ていうか、ぼくは近未来とか舞台にする時、設定を詳しく書かなくていいように、逃げの方向へ走るんですけど、ゆずはらさん全部書くじゃないですか。

ゆずはらとしゆきゆずはら:あー。普通の作家さんがああいうことをやらないのは分かっているんですよ。面倒くさいから。でも、あのくらい作り込まないと、隣にいたのが西尾さんだったから、完全に埋もれてしまうんじゃないか、という強迫観念がありまして。普通に小説を書いても、まるで目立たないんじゃないかと。

日日日日日日:だからと言って、安易に売れているひとの真似をするわけにもいかないですしねえ。

ゆずはらとしゆきゆずはら:『空想東京百景』も、初代の担当さんから「なんか痛快さが足りないんですよねえ。もっと派手なアクションで、男性主人公で……早い話が、奈須きのこさんを見習ってください!」と言われたことがありましたけど。「無茶言うな!」と。

日日日日日日:『空想東京百景』の場合、もう、ゆずはらさん独特の世界観を作り上げているわけですからねえ。いろいろと器用だから、物真似はできるかも知れませんけど、作品の世界観を壊したら元も子もないじゃないですか。独自の変則打法を編み出して成績を残している打者に、いきなり(王貞治の)一本足打法を真似ろ、と言うようなもので。

ゆずはらとしゆきゆずはら:中二病全開の割にどんより湿っぽい世界観ですからなー。普通は企画段階で没になる代物なのに、どさくさ紛れで単行本が出て、カルト作品枠で続いている、というか……。まー、それはそれとして、初期の講談社BOXを支えてきた作家さんたちが移籍されたことで、逆に「これまで依頼できなかった作家さんに依頼できないだろうか?」という話が出てきまして、真っ先にリストアップしたのが日日日さんだったんですよ。

日日日日日日:前任者の趣味に合わなかった作家さんをリストアップした、と(笑)。

ゆずはらとしゆきゆずはら:そう言ってしまうと身も蓋もないんですけど。これまで書いていなかった作家さんに依頼することで、星海社……というよりは、過去の講談社BOXと違うレーベルカラーを打ち出せないかな? という話になったんですね。これまでと同じ方向性で行くわけには行かないし、行ったところで共倒れになるだけですから。

日日日日日日:それで、ゆずはらさんが企画編集に回るというのも、なかなか謎というか……。

ゆずはらとしゆきゆずはら:元々、企画のネタ出しには協力していたんですよ。酔っ払って「安達哲さんの『さくらの唄』復刻とかどうかなー?」とか適当なことを言ったら、本当に作られて真っ青になったこともありましたけど。「講談社漫画文庫で出ているのに、本当に出したのかよ!」って。

日日日日日日:なんだか、いい加減なレーベルですねえ……そりゃ、2冊同時発売とか、打ち合わせ一回であっさり決まるはずだ。

ゆずはらとしゆきゆずはら:いや、日日日さんに関しては、真面目に考えた結果なんですよ? 作家陣も手薄だったんですが、編集者の数も足りなくなっていたから、「戦線を維持しているうちに作家陣を再整備しないと」とか言われて。それで、いったん企画編集の側に回ることになったんですけど……。

日日日日日日:それ、作家に言う台詞じゃないですよねえ。他の方法はなかったんですか?

ゆずはらとしゆきゆずはら:『空想東京百景』2巻の話どころじゃなくなりますからねえ。だから、どさくさ紛れではありますが、ちゃんとした本をしっかり出さないとなー、と考えて、2冊同時発売ということに。【※01】

日日日日日日:横で編集さんが苦い顔してますけど(笑)。そこまで話すのかよ、って。

ゆずはらとしゆきゆずはら:まー、事実ですからねえ。『空想東京百景』1巻は、結局、自分で編集しましたし、石田敦子さんの『姉さんゴーホーム』も作っていますから、作れることは作れるんです。だから、数年に1冊しか出ない『空想東京百景』を待つよりも、1年に何冊か作ってくれた方が戦力になると(笑)。

編集部:というか、ゆずはらさん、2009年の夏に一度、病気で倒れていて、小説執筆に関してはリハビリ中でしたから……。

ゆずはらとしゆきゆずはら:小説を書こうとしても、晩年の武者小路実篤みたいに、書いても書いても同じ文章が繰り返しループするんですよ。

日日日日日日:あの……それって、かなり重症だと思うんですが?

編集部:(無視して)あの頃は、生き残るために必死でしたね……。

ゆずはらとしゆきゆずはら:あと、西尾さんの孤軍奮闘を見ていたから、せめて後方支援くらいはしないと申し訳ない、と。当時のBOX編集部の状況は混沌としていましたから、あくまで新しい方向性のひとつ、だったんですが。

【※01】逆に、腕の立つ作家さんの企画が宙に浮いていたのですが、講談社BOX側の新しい方向性とは違っていたので、独立直前だった初代の担当さんに餞別っぽく伝えて、あっちから出た、ということもありました。あと、『空想東京百景』2巻は、今のところ、2014年発売予定です。

『平安残酷物語』『のばらセックス』同時刊行の経緯

日日日日日日:2冊同時刊行になったのは、どういう経緯でしたっけ?

ゆずはらとしゆきゆずはら:最初に打ち合わせた時、「『平安残酷物語』だけだとインパクトが弱いから、もう一冊やりましょうか」と。たぶん、これが講談社BOXのターニングポイントになるだろうな、と思ったんで。

日日日日日日:そうそう、それで、「だったら、ライトノベル寄りと一般文芸寄りで同時発売でどうだろう」という話になったんですよね。でも、一般文芸寄りの『のばらセックス』のイラストレーター選びでは、少し混乱したというか。どうもしっくりこないなー、と。

ゆずはらとしゆきゆずはら:『ビスケット・フランケンシュタイン』みたいな話を書くと聞いていたから、もしかして、toi8さんみたいな絵柄が良いのかなー、と思っていたんですよ。『平安残酷物語』は、最初から千葉さんにお願いしようと思っていたんですが。

日日日日日日:うん。ぼくもプロットの時点ではイメージが固まっていなかったというか、自分自身、何がしたいのかよく分かっていなかった。

ゆずはらとしゆきゆずはら:最初は、一般文芸向けのイラストレーターさんもリストアップしていたんですよね。

日日日日日日:やりとりしているうちに「こりゃ、どうも違うぞ」と。「だったら、千葉さんで揃えた方が良いかも」という話になったんですよね。とはいえ、千葉さんには『平安残酷物語』に全力投球するような仕事量を発注していたので、可能なのかなー、と。【※01】

ゆずはらとしゆきゆずはら:シリーズ1作目はツカミが大事、ということで、かなり凝った仕様にしていましたからね……。講談社BOXって、文庫系のレーベルほど編集フォーマットが決まっていないというか、普通のライトノベルレーベルより自由にイラストが使える利点はあるんですけど、実はそんなに効果的に使っている本はなくて。やればやるほど、編集作業に時間かかってしまうから、当たり前なんですけど。

日日日日日日:そうね。『空想東京百景』なんて、どういう指定を入れて作ったのか、何度読み返してもさっぱり分からない。

ゆずはらとしゆきゆずはら:あー。あれは、途中で初代の担当さんに「ゆずはらさんの考えていることは、複雑すぎて分からないです」と匙を投げられちゃったんで。元々、「分かりました。講談社BOXの枠組みで作れる本の限界を試しましょう」ということで、企画を通してもらったんですけど、言ったひとの手にも負えない怪物になってしまったんですね。しょうがないので、週1とか週2で講談社へ通いつつ、当時は編集部内にあったDTP班と直接やりとりしながら作りました。【※02】

日日日日日日:聞けば聞くほど、訳が分からないんですが……。作家自身が編集の陣頭指揮を執るって。

ゆずはらとしゆきゆずはら:元々、イラストのtoi8さんやデザインのヨーヨーラランデーズさんには、ぼくから直接、発注していますから、こうなったら全部自分でやっても同じだよなー、と。

日日日日日日:それで、ぼくの本の編集までやる羽目になった……と。

ゆずはらとしゆきゆずはら:一般的なライトノベルではやらないようなイラストの使い方をしないと、せっかく日日日さんに来てもらった意味がないよなー、と思ったんで、ぼくが作ることになりました。講談社BOXならではの特色を生かした作りにしたかったんですよね。

日日日日日日:講談社BOXの特色って、いまいちよく分からなかったんですけど、確かに、普通のライトノベルとは、置かれている棚も基本部数も違いますからねえ。それは、講談社ノベルス『ひなあられ』を出した時も思ったんですが。

ゆずはらとしゆきゆずはら:まー、入稿作業も終わったので、ドス黒い話をしますと、創刊時にコストの高い銀箱とペーパーバックの組み合わせにしたことで、編集の自由度は高くなったんですけど、どうしても定価の最低ラインが高くなってしまうんですね。だから、自由度の高さを最大限に活かす工夫をしないと、単に高いだけのぼったくりレーベルになってしまう。具体的には、イラストまで含めてプレミア感のある仕掛けを常に考えなければならないというか。

日日日日日日:それって、特色じゃなくて、〈宿命〉とか〈呪い〉の類ですよ。

編集部:でも、銀箱のおかげで良くも悪くも、本屋さんの棚で存在感を示して、レーベルが生き残ることができた、という側面もありますから、必ずしも悪いことだけではなかったんですよ。ただ、時代の流れも変わっていますから、今後はそのあたりも変わっていくと思いますけど。【※03】

【※01】絶望的に売れなかった場合は別として、最初からシリーズ化の構想はありました。で、デザイナーもヨーヨーラランデーズさんで統一することになっていたのですが、イラストレーターを千葉サドルさんで統一するかどうかに関しては、迷っていました。

【※02】『空想東京百景』1巻は、小説、漫画、絵物語、辞典がごちゃまぜに混淆した無茶苦茶な本でしたので、ゆずはらさんが作った台割と仕様書を見ても、どうやって作るのか、さっぱり分からなかったのですな。かくして、別に交通費が出るわけでもない、完全な自腹で講談社に通勤していたのですが、行くたびに出前で釜飯を取ってくれたことは感謝しております。専業作家になったばかりの無職欠食児童だったので。

【※03】事実、『図書館パラセクト』からは普通の箱になっています。レーベル創刊時、銀箱に統一することを決めたひとも、もういないので。

千葉サドルさんの起用と、講談社BOXのイラスト嗜好

ゆずはらとしゆきゆずはら:講談社BOXのレーベルカラーというか、初代部長の趣味というか、『ファウスト』の頃からカプコンデザインチームや金子一馬さんあたりの影響を受けた感じのリアル系な絵柄や、ちょっとアート入ったような絵柄への評価は高いんですけど、美少女系の可愛い絵柄にはすごく点が辛いんですよ。だから、ぼくの管轄だと、toi8さんには依頼できるんですが、千葉サドルさんには依頼できなかった。日日日さんとは別の意味で、千葉さんも「これまで依頼できなかった作家さん」だったんですね。

日日日日日日:でも、『東方』シリーズやボーカロイド以降に出てきた若い世代のイラストレーターって、だいたい、美少女系の絵柄に括られるじゃないですか?

ゆずはらとしゆきゆずはら:ですね。しかも、今はデジタル化で全体の技術レベルが底上げされていますから、3つの系統の違いもディフォルメの方向性と選ぶ側の趣味嗜好だけです。だから、旧来の感覚のままだと、時代とのズレが少しずつ広がってしまうんですね。逆に言うと、千葉さんを起用したのは、講談社BOXで使える絵柄の幅を広げる、という意図もありました。

日日日日日日:千葉さんに『のばらセックス』もお願いすることになって、ひとつだけ心配していたのは、〈性〉にまつわる描写は大丈夫なのかな? ということだったんですよ。児童向けのわりと健全なファンタジーっぽいイラストばかり見ていたんで。でも、『電撃萌王』や同人誌とかで描かれた男性向けのイラストを見たら、何の問題もなかったです! えろかった!(笑)

ゆずはらとしゆきゆずはら:可愛くて色っぽいけど、ちょっと妖しさもあって。でも、下品じゃなくて清潔感のある絵がいいな、と思って推薦していたので、そのあたりは大丈夫だと思っていました。講談社BOXの場合、toi8さんもそうなんですが、男性向けではあるんですけど、女性に嫌われないタイプの絵柄の方が成功するみたいなんで。

日日日日日日:講談社BOXは、わりと女性読者が多いという話も聞きまして、あんまりガチエロにしてもしょうがないなー、とは思っていたんですが、「こういう絵柄でも大丈夫なんだー」と安心しました。でも、普通のライトノベルレーベルだと、講談社BOXとは逆で、リアル系の絵柄だと「これ大丈夫かな?」となるんですよね。リアル系だとあからさまに読者に受けないというか、編集さんの側も美少女キャラを前面に出す以外の作り方が分からないんですよ。

ゆずはらとしゆきゆずはら:そのあたり、本当に正反対ですよねえ。

日日日さん、『のばらセックス』を語る

日日日日日日:『のばらセックス』を書いたきっかけは、以前、toi8さんにイラストを描いていただいた『ビスケット・フランケンシュタイン』という小説が、「Sense of Gender賞」というSF系の文学賞で大賞になりまして、「え、なんで?」と、ずっと思っていたんですよ。

ゆずはらとしゆきゆずはら:あー、同じ年の話題賞が樺山三英さんの『ハムレット・シンドローム』で、当時のガガガ文庫の担当さんが珍しく自慢していたのを覚えていますよ。

日日日日日日:あれも『跳訳』シリーズでしたっけ?

ゆずはらとしゆきゆずはら:ええ。諸事情で明記されなかったんですが、ぼくの『十八時の音楽浴 漆黒のアネット』と同じシリーズです。【※01】

日日日日日日:でも、『ビスケット・フランケンシュタイン』では、ジェンダーの話って、ほとんど取り扱ってないんですよ。第1話で性同一性障害の話をちらっとやっているくらいで。ヒロインの女の子が同性愛をすごく肯定しているんですよ。論理的に。もしかしたら、その辺が引っ掛かったのかな。人間じゃない女の子が人間の遺伝子を運んで云々みたいな、肉体的なセックスが運ぶんじゃなくて、ジェンダーが運ぶみたいな。

ゆずはらとしゆきゆずはら:「Sense of Gender賞」自体が、いろんなジャンルから作品を引っ張っていて、なかなか謎の賞ですよね。【※02】

日日日日日日:まー、賞をいただいてしまったので、漠然とそういうテーマを改めて扱ってみようかなと、ずっと考えていました。別に講談社BOXさんで書きたい、というわけではなかったんですけど、一回やってみたかったんですよね。『のばらセックス』という題名だけは、MF文庫Jで書いていた頃にプロットで出していたんですが、その時は保健室の小さな先生にみんなが相談に行く、という話でした。没になったんですが、タイトルだけが残っていて、これ使えるかも、と思って書いてみたら、まるで違う話になったという。

ゆずはらとしゆきゆずはら:違うというか、原型すら留めていないですよね。

編集部:ひとつ気になったのは、どちらの作品も、終末世界というか……大人が死に絶えた後の話ですよね?

日日日日日日:『平安残酷物語』が先にあったんで、イラストが千葉サドルさんになって、似せなきゃいけないのかなー、とか思ったりしていました。あと、生臭い話をするとリアルな現実世界の話がさっぱり書けないんで。箱庭的な。

ゆずはらとしゆきゆずはら:まー、ライトノベルだと、あんまり親とかを出せないんですよね。大人がいるだけで話がどんより暗くなるというか、読者の意識が現実へ引き戻されてしまうから。その部分に関しては、ジャンプやマガジンの少年漫画より厳しいかも知れない。【※03】

日日日日日日:「殺してください」とか言われますからね。「海外に行かせてください」とか。で、親の代わりに何故か同級生が同居することになって……とか。何でやねんと。あと、『平安残酷物語』の連載版を書いたのは、まだ10代ギリギリの頃だったので、親という存在がリアルに想像できなかったんじゃないですかね。『のばらセックス』を書いた頃にはさすがに分かっていましたけど、出さんでええと。『平安残酷物語』は子供が想像する親なんですけど、『のばらセックス』は親が想像する子供、というか。「ああ、おちばちゃん頑張ってるね、可愛いね」っていう感じなんですね。

ゆずはらとしゆきゆずはら:親といっても、手前勝手な妄執に囚われた、かなり歪んだ親ですけどね。どっちも。

日日日日日日:そうそう。こいつら、実は子供に抱いている妄執の方が大事で、子供そのものにはそんなに興味ないんじゃね、っていう。『平安残酷物語』の方は、まー、夢を見てるんですかね。

ゆずはらとしゆきゆずはら:『平安残酷物語』の方も、最終章近くの展開は、純粋なライトノベルレーベルでは難しいですけどね。

日日日日日日:あれは当時、一般文芸を読みまくってたんですよね。書き下ろしのために読み直したら、突然、女性の生々しい生活みたいのが出てきてびっくりしましたよ。あれ、こんなの書いてたっけ? って。

ゆずはらとしゆきゆずはら:で、原稿を受け取って「確かに、これはライトノベルじゃ無理だよなァ」って思ったんですけど、ぼく自身、ずっとこういう話ばかり書いていたら、純粋なライトノベルレーベルでの仕事が無くなっているので、そりゃそうだよなー、と納得しました。

日日日日日日:そうね。ゆずはらさんが言うことじゃないよね。ぼくは大好きだけど(笑)。

ゆずはらとしゆきゆずはら:自己弁護になるけど、キャラクターのバックボーンみたいなのを掘り下げて行くと、必ず、読者には楽しくない、生々しい生活感を纏ってしまうんですよね。どっかで制限をかけないと、ライトノベルのキャラクターにはならない。

日日日日日日:ライトノベルのキャラクターは、トイレに入らないですからね。それがえっちなフェティシズムに繋がるケースを除いては(笑)。

ゆずはらとしゆきゆずはら:ヒロインがトイレに入ったら主人公がパンツ一丁で寝ていて「○○さん! 何も言わずに、俺にぶっかけてくれえ!」みたいな……。

編集部:安達哲先生の『キラキラ!』ですか(笑)。でも、『週刊少年マガジン』の連載漫画企画だと、親の顔も想像しながらキャラクターを作るんですけどね。履歴書みたいなのを作って。だから、ストーリー重視というか、キャラクターが弱いのかも知れませんが。【※04】

ゆずはらとしゆきゆずはら:講談社の場合、教養小説っぽさが〈戦前の少年小説〉からの社風というか、伝統ですからねえ。『週刊少年マガジン』だと、梶原一騎先生とか、ちばてつや先生とか。【※05】

日日日日日日:ライトノベルの場合、キャラクターは意識的に「記号であること」を求められるんですよ。たとえば、MF文庫Jなどは、そのあたり徹底していて、属性別にアンケートを取って「どの属性が好きですか?」と数値化しているんですね。好き嫌いでマイナスとプラスの属性がはっきり分かれてるんで、「マイナス票が多い属性は使うな、使うならプラスの属性で補え」となる(笑)。

ゆずはらとしゆきゆずはら:あー、「眼鏡っ娘はダメだ」とか、よく言われますね……言われるたびに、よだれを垂らして「フヒーッ、ヒ、ヒ、ヒ、ヒ!」と奇声を上げながら、パンツという名の四次元ポケットから〈地球はかいばくだん〉を取り出したくなりますが。

日日日日日日:眼鏡はマイナス70%だからツンデレ分90%で補わないと……という感じですね。「これはカードゲームなのか?」という。まー、書く側としては楽なんですけどね。工場みたいに「このパーツとこのパーツで作ってね」って感じで。

ゆずはらとしゆきゆずはら:まさにファクトリー……。まー、ニール・D・ヒックスの『ハリウッド脚本術』とかもそんな感じですよね。昔、えろーすな小説を書いていた頃、担当さんに「エロにも『ハリウッド脚本術』があるんですよ!」とか説教されていたなァ。「一章に一回、必ずレイプシーンを入れてください!」とか、『デトロイト・メタル・シティ』のクラウザーさんみたいなことを言われて。そんなに思いつくわけがないから、ちょうど手元に置いてあった戦後猟奇犯罪辞典を参考にして書いたら「生々しすぎる! これは読者が求めているレイプじゃない!」と怒られました。どんなファンタジーだ。

日日日日日日:手元に何を置いているんですかあなた。そういうストレートな性表現って、ライトノベルではあまりできないんで、一冊書けば慣れるかなー、と思ったんですけど……慣れなかったですね。

ゆずはらとしゆきゆずはら:苦労しました?

日日日日日日:うん。最初、エロシーンだけ飛ばして書きました。先に第3話とかがすごくサクサク書けて、先のこういうシチュエーションに繋いで、というところまで書き終わったら布団にこもって、あとは「どないすればええねん」とウンウン唸ってました。単語も出てこないし、シチュエーションも出てこないし、キャラとして類型化されていない女性を細かく想像しなくちゃいけないから疲れるんですね。まー、考え方はラノベのバトルシーンと同じだな、と思って、「こう見せて」「こうクライマックスになって」「血が噴き出して」とか……頑張って考えましたよ。

ゆずはらとしゆきゆずはら:ぼくは逆なんですよねえ。えろーすなシーンはスラスラ書けるんですよ。むしろ、「これでエレクチオンしたら正気を疑われるだろ」という、嬉しくないエロにするために技巧を尽くす、という感じで。官能小説ではないですから。

日日日日日日:そのあたり、ぼくとゆずはらさんのキャリアの違いですよね。

ゆずはらとしゆきゆずはら:まー、普通にえろーすな官能小説も書いていましたからねえ。半分以上、無記名ですけど。これまで読んできた小説の違いもあるかも知れませんけど。

日日日日日日:ゆずはらさん、いろいろと年齢不詳すぎて、未だに本当の年齢を知らないんですが(笑)。

ゆずはらとしゆきゆずはら:『魔少年ビーティー』を『週刊少年ジャンプ』の連載で読んでましたよ(笑)。

【※01】『跳訳』シリーズは、著者が亡くなってから50年が経過し、著作権フリーになった昭和以前の名作小説を大胆に脚色して、ライトノベル化するというもので、小学館ガガガ文庫が2007年に創刊した時の看板企画でした。……で、ゆずはらさんは、海野十三先生の『十八時の音楽浴』と『火葬国風景』を原作に『十八時の音楽浴 漆黒のアネット』という小説を書きました。

【※02】「Sense of Gender賞」は、「ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア賞」の日本版として、性別という役割を探求しているSF作品、ファンタジー作品に贈られている賞です。日日日さんの『ビスケット・フランケンシュタイン』は、2009年度の大賞でした。

【※03】うっかり「ライトノベルの世界観に、親を出してみようぜ!」とか考えると、どっかの早川書房からゆずはらさんが出した『咎人の星』みたいな大惨事が発生します。

【※04】『キラキラ!』はラブコメ青春漫画の名作(怪作?)ですが、『さくらの唄』や『お天気お姉さん』と違って、まだ少年漫画誌連載だったので、いくらなんでもそんな描写は無かった……はず。もっとも、2013年の現在、『別冊少年マガジン』では『惡の華』という漫画が連載されていて、そういうフェティシズムなお話をやっておりますが。

【※05】此処での〈戦前の少年小説〉は、大日本雄弁会講談社が大正三年(1914年)から昭和三十七年(1962年)まで刊行していた『少年倶楽部』を指しています。その〈熱血痛快〉路線は、実質的な後継誌であるところの『週刊少年マガジン』にも引き継がれています。

「ライトノベルっぽい娯楽小説」と、えろーすの話

ゆずはらとしゆきゆずはら:その頃は〈ライトノベル〉という言葉もなかったんですよ。「ライトノベルっぽい娯楽小説」は読んでいたけど、そうなると、菊池秀行先生の『魔界都市』シリーズや、西村寿行先生の『鯱』シリーズまで、その括りに入ってくるんですよ。基本がエロス&バイオレンスで。【※01】

日日日日日日:『キノの旅』を読んで育ったぼくとはまったく違うんですね。

ゆずはらとしゆきゆずはら:ぼくが『キノの旅』を読んだ時は、もう社会人でしたから、「ついにライトノベルでも、黒星(紅白)さんのイラストが使われる時代になったのかー」と感心していました。小説の内容より、本作りの裏事情の方が気になる職業病……。【※02】

日日日日日日:それじゃもう、影響受けるとかじゃないですよね。ぼくは「童話みたいだけど残酷で面白いね」と思っていたんですけど。

ゆずはらとしゆきゆずはら:あ、読者としては、面白かったですよ。あの頃の電撃文庫はスタイリッシュ&ダークな中二病エンタメで楽しかったなァ。『ブギーポップは笑わない』とか『ダブルブリッド』とか。逆に言うと、その後、そういう中二病エンタメの可能性が〈セカイ系〉なんて言葉で矮小化されて、萌えとか日常とかゆるふわな要素をメインに据えるようになって「えー、今の子供って、こういうのを読んでいるの?」と驚いたですよ。子供の頃、80年代のエログロ全開な『週刊少年ジャンプ』を読んで育ったから、「子供はエロス&バイオレンスが三度のメシより大好き!」と思い込んでいたので。【※03】

日日日日日日:ぼくもそう思っていましたよ。でも、今は直接、エロス&バイオレンス描写ができないから、フェティシズムに偏ってる。

編集部:小学生の頃、富野由悠季さんの『リーンの翼』とか読んでいましたけど、あれ、最初から乱交シーンですからねえ。さすがに大人向けすぎて、母親に怒られました。

日日日日日日:「こんなもん読むな!」って怒られるんだ。でも、それは必要な儀式でしょう。通過儀礼。

編集部:まー、連載されていた『野性時代』を買ってきた、親父の責任なんですけどね。

ゆずはらとしゆきゆずはら:当時の角川文庫はファンタジーフェアとかやっていましたからねえ。でも、スニーカー文庫はまだなかったから、一般文芸と大人向け娯楽小説とティーン向けのファンタジー小説とか境界線が曖昧で、『野性時代』あたりはごった煮だったんですよね。

日日日日日日:ぼくの時代になると、文芸誌を買ってくるという発想が、そもそもなくなっていますね。もう、『ザ・スニーカー』や『ドラゴンマガジン』のようなライトノベル専門誌があったんで。

ゆずはらとしゆきゆずはら:前に『ユリイカ』のエッセイでも書いたんですけど、80年代だと『SFアドベンチャー』あたりのSF雑誌が、今のライトノベル専門誌ぐらいの位置で……でも、載っているのは、平井和正先生の『地球樹の女神』とかですから、今のライトノベルとはかなり違いますよね。

日日日日日日:恋愛をテーマにしていても、なんか根底から違いますよね。なんでこんな国になってしまったのか(笑)。

ゆずはらとしゆきゆずはら:今、小学生だったら、『電撃G'sマガジン』とか『電撃文庫マガジン』とか買って、『ロウきゅーぶ!』とかを読んで「まったく小学生は最高だぜ!」とか言ってるのかなァ。

日日日日日日:小学生は『ロウきゅーぶ!』とか読んでるんだろうか?(笑)【※04】

ゆずはらとしゆきゆずはら:ぼくが住んでいるマンションには、居住者向けの小さな喫茶スペースがあるんですけど、夕方になると小学一年生くらいの子供たちが集まって、『To LOVEる ダークネス』を食い入るように読んでいて、大丈夫なんだろうか? と。

日日日日日日:うわ〜。小学一年生から『To LOVEる ダークネス』かあ……レベル高いな。それはさすがに良くないというか、ちゃんと楽しめているのかな?

編集部:いや、面白いでしょう。

ゆずはらとしゆきゆずはら:編集者(妻帯者)が断言するのはどうかと思いますが……。いや、ぼくも小学生の頃、『いけない!ルナ先生』とか読んでいた記憶はありますけど、あの頃の少年漫画誌のエロなんて、ウンコシッコギャグの延長線でしたからねえ。大人向けで言えば〈艶笑もの〉で。ひたすら女の子の可愛さだけで読ませる漫画なんて、細野不二彦先生の『さすがの猿飛』くらいで。

日日日日日日:ぼくが子供の頃は『らんま1/2』ぐらいだったなー。その当時に『To LOVEる ダークネス』に出会いたかったよねえ(笑)。というか、変な性癖が芽生えなければ良いんですけど。

編集部:日日日さんやゆずはらさんには言われたくないですよ。隙あらばエログロ変態ライトノベルの企画ばかり提出してくるひとたちに……。

日日日日日日:失礼な!(笑)

ゆずはらとしゆきゆずはら:そうですよ! ライトノベル界のアブノーマル横綱大社長であるところの深見真さんとかに比べたら、ぼくらの変態番付なんて、それこそ序ノ口、幕下レベルですよ!

日日日日日日:ふんどし担ぎから出直してこいですよ!

ゆずはらとしゆきゆずはら:U2のボノがグラミー賞でフランク・シナトラをリスペクトしたくらいリスペクトしてますよ!【※05】

編集部:もういいです。元の話に戻ってください。

ゆずはらとしゆきゆずはら:まー、本番こそないですけど、あんなハイレベルなえろーす漫画を読んでいる小学一年生が思春期に入ったら、それこそ何を読んだら満足できるんだろう?

日日日日日日:もう、18禁に手を出すしかないよね。

ゆずはらとしゆきゆずはら:でも、18禁のえろーす漫画より『To LOVEる ダークネス』の方が下手すると扇情的でクオリティも高いですよ。さすが、日本で一番売れているえろーす漫画、というか。ゆりかごから墓場まで。

日日日日日日:普通に少年漫画誌のパッケージで売ってますからねえ。

ゆずはらとしゆきゆずはら:本当はスイーツなゆるふわエロだけじゃなくて、ハードなエログロもあった方がいいと思うんですけどね。エロのクオリティが高くなりすぎて、グロやバイオレンスを触媒として必要としなくなっているのは、ちょっと怖いな、と。『のばらセックス』は、思いっきりそういう流れに抗っていますけど。

日日日日日日:あー、企画の背景にそういう状況があるわけですね。このご時世に、ぼくに新風を吹き込ませようとした、と(笑)。

ゆずはらとしゆきゆずはら:今、すごい殺意を感じたんですが(笑)。

日日日日日日:いやいや、小説家として生きていくために、できる限りなんでも書けるようになっておきたいので、そこに不満はないですよ。ちなみに、『のばらセックス』を書いた後にもうひとつ、えろっぽい仕事をしたんですけど、書く上で「まず布団にこもる」と分かったんで、そっちはあんまり苦労せずに書けたかな。

【※01】「ライトノベルっぽい娯楽小説」は、1990年代までは〈ジュヴナイルノベル〉〈ヤングアダルトノベル〉などと呼ばれていましたが、70年代から80年代にかけては〈伝奇SF〉が流行していたので、アダルトなエロス&バイオレンス作品が多かったのです。これに対し、角川書店が1986年の夏に、当時のコンピュータRPGブームやアニメとのメディアミックスを意識した『角川文庫ファンタジーフェア』というキャンペーンを行い、これが母体となって、角川スニーカー文庫や富士見ファンタジア文庫が創刊されたので、自然発生的に〈ライトノベル〉という呼称が定着するまでは、〈ファンタジーノベル〉という呼称もありました。

【※02】1990年代までは、パソコン通信やweb上で活動している商業的に無名のイラストレーターをいきなりライトノベルのイラストに使うことは稀でした。しかし、1998年の『ブギーポップは笑わない』で、当時、無名だった緒方剛志さんを使って成功した電撃文庫が、2000年の『キノの旅』で黒星紅白さん、『ダブルブリッド』で藤倉和音さんと原田たけひとさんをそれぞれ起用し、評判となったことで、ライトノベルのイラストレーションの方向性は大きく変わりました。

【※03】〈セカイ系〉という言葉は、web発祥の言葉ですが、元々のニュアンスは「内面と世界の破滅が直結しているような自意識過剰な語り口でエログロバイオレンスをスタイリッシュに描く作品を小馬鹿にするだけの言葉」でした。しかし、とある媒体で「まるで高尚な命題であるかのように」意訳されたことから、衰退していきました。早い話が、頭でっかちな人々のイデオロギッシュな遊び道具に成り果ててしまい、娯楽作品としての大衆性が失われてしまったのですな。

【※04】このあたり、後日公開予定の後半部分で改めて話しておりますが……それこそ『ロウきゅーぶ!』に限らず、ライトノベルに於けるイラスト、キャラクター設定、宣伝文句などのフェティッシュなはっちゃけ具合は、あくまで「商品としての仕掛け」「読者が盛り上がるための仕掛け」であって、小説自体は「それとは別のこと」を真面目に書いていたりするのが、ライトノベルの美点というか、特徴だったりします。念のため。

【※05】1994年のグラミー授賞式で功労賞を授与されたフランク・シナトラに、ゲストプレゼンターのボノが葉巻をくわえつつ「このボスは、アメリカが(アイルランド出身の)俺たちに与えてくれた、ふたつの素晴らしい出来事のひとつだ!」「ひとつは戦争(第二次世界大戦)の終わりと(東西冷戦の)始まりで、もうひとつはそれと一緒に(ラジオから)流れてきたシナトラの歌だ!」「フランク・シナトラは、ボスの中のボスだ! ニューヨークの帝王だ!」という調子で、シナトラの物騒な人生と素晴らしい音楽を讃える(?)コメントを読み上げ、スタンディングオベーションに包まれた会場で強面のシナトラも涙を流した、というエピソードがありまして……。それはそれとして、深見さんがガガガ文庫で書いた『武神クロスロード』は、間違いなく〈地上最強の変態ライトノベル〉です。人類にはまだ早すぎたけど……。

日日日さん、『平安残酷物語』を語る

ゆずはらとしゆきゆずはら:話を戻しまして、そろそろ、自作の解説みたいな感じで行きましょうか。

日日日日日日:『まんたんブロード』連載時の『平安残酷物語』は、とにかくページ数が少なかったので、身近なネタで完結する話にしたいと思ってたんですよ。だから、その時、部屋にあるものでネタを決めようという縛りをやっていまして、プールに行って水着を干しているからプールに行ってみようか、とか、マラソンで走ってみたから走ってみよう、とか、当時、お姉ちゃんが料理の本を持っていたから料理ネタにしよう、とか、そんな調子で書いていました。

ゆずはらとしゆきゆずはら:引きこもりの思考を完全にトレースする感じで……。

日日日日日日:あの頃、ものすごい勢いで小説を書いていたんで、外に出ることすら、めったに無かったんですよね。でも、それで暮らせていたので、そういう自堕落な生活をしながら、たまに餌をくれるお姉ちゃんを小春さんに見立てて、という。ある意味、連載版の『平安残酷物語』って、私小説に近いんですよ。その時々で起こった日常の出来事からネタを考えて、怪奇現象を混ぜたような話ですから。そのため、連載版と書き下ろした部分では、結構、内容が違うんですね。

ゆずはらとしゆきゆずはら:書き下ろし部分では結構、外に出ていますからね。

日日日日日日:数年のブランクを経て、ぼくの生活が変わっているから、こづえも外出するし、他人と会う機会が増えているんですよ。だから、単行本だと中盤くらいまでが純粋な『平安残酷物語』ですね。それ以降はもう、今のぼくになってるんで、こづえさんの考え方も微妙に違ってきている。昔の方がひねくれてましたね。

ゆずはらとしゆきゆずはら:そうですね。書き下ろし分はそんなにひねくれてないですね。

日日日日日日:昔の自分が書いているのではなくて、昔の自分を思い出しながら書いていましたからね。視点がどうしてもツッコミ役になってしまうというか、上手く想像できないところもあったのですが、そういう日日日の成長の軌跡を見ていていただければ……。まー、連載版はよっぽどネタがなかったんですね(苦笑)。当時は連載を抱えすぎていたから。

ゆずはらとしゆきゆずはら:今もあんまり変わらないような気がしますけど。働き過ぎというか。

日日日日日日:いやいや、今はあの頃に比べれば、落ち着いたものですよ。当時、何を考えて書いていたのか、さっぱり思い出せないんですから。書きながら「あー……これで7ページか……終わった……」って感じでした。

ゆずはらとしゆきゆずはら:連載はそうなるんですよ。ぼくも今やっているから、痛いほど分かりますけど。

日日日日日日:本当に小説の連載はきついですよね……。今となっては懐かしいですけど。

ゆずはらとしゆきゆずはら:今、双葉社でやってる連載も、完全なフィクションなんですが、作品内で起きたことには、知人の漫画家やぼく自身の体験が、いくつか混じっているんですよね。だから、フィクションとの辻褄を合わせるのがなかなか難しくて、そこで時間かかってますね。【※01】

日日日日日日:またそんな面倒くさそうなことを……。

ゆずはらとしゆきゆずはら:青春もの、という依頼だったんですけど、ぼく自身が万人受けする普通の青春を送っていないんですよ。いろいろと職業を転々としていて、学校もろくに通っていないし。だから、意識的に〈フリークスな青春もの〉を書くしかなかった。

日日日日日日:ぼくは逆に、反射的というかナチュラルに書いていましたねえ。当時、思っていたことをそのまま書いていて、自分が走ると「走りたい」と書いたり。うっかりすると思っていたことですらないというか、「あ、そうだったんだ」という。当時はかなりひどかったですねえ、金もない、時間もない、未来もない……っていう。ちょうど、デビューして2年目、いくつかシリーズものを始めた頃で、「俺、この先あるのかなー」って。

ゆずはらとしゆきゆずはら:デビュー当時の『蟲と眼球』シリーズとか、すっごいハイペースだったような記憶があるんですけど。【※02】

日日日日日日:さすがにそんなことはないですよー。2、3年かけて書いたはずだから。あの頃は専門学校にも行ってましたしね。だから、このまま小説だけ書いて自堕落に暮らしたいなー、という願望がすごく出ていますよねえ。どの作品にも。その後、かなり経ってから、単行本化されるとは思っていなかった企画が通って、ガガガ文庫で『ささみさん@がんばらない』という引きこもり主人公の話が始まったんですけど、あっちは速攻で外に出ちゃうんですよね。もう、引きこもりが描けなくなってますね。

ゆずはらとしゆきゆずはら:確かに、ささみさんが引きこもりだったのは1巻だけでしたね。

日日日日日日:2巻でもう、外に出てしまいましたからねえ。でも、いまだに「引きこもりの少女とお兄ちゃんの物語」とか言われてて。いやいや、最近は海外にまで行っちゃったよ?(笑)

ゆずはらとしゆきゆずはら:もうすっかり学園生活を謳歌して(?)いますからねえ。実は、これから出る7巻の「邪神オリエンテーリング」ネタにちょっとだけ関わっているんですが。

編集部:そんなことしていたんですか。

日日日日日日:あー、取材名目で、ぼくとゆずはらさんと数人の作家さんで、『クトゥルフ神話TRPG』をプレイしたんですが、ぼくとゆずはらさんがテーブルトークRPG初心者だったから、ひどいアドリブが炸裂しまくって、プロのGMでもある作家さんをさんざん振り回す大惨事に……。ぼくが身長2メートルで児童虐待のトラウマ持ちな黒人モグリ医者、ゆずはらさんがテンガロンハットに上半身裸のアダルトビデオ監督兼探偵というキャラメイクの時点で、もう何の参考にもなりゃしない(笑)。【※03】

編集部:何をやってるんですか……あなた方は……。

ゆずはらとしゆきゆずはら:いや、廃墟もののアダルトビデオを撮ろうとして、主演男優の日日日さんたちと地方のおんぼろモーテルへロケハンに行ったら、実は邪神の館でもう大変、みたいな?

日日日日日日:いやいや、そんな話じゃないです(笑)。誰が主演男優ですか。

編集部:ガガガ文庫はうちと違って、健全な青少年向けライトノベルなんですよ?

ゆずはらとしゆきゆずはら:編集部がそれを言いやがりますか? それはそれとして、引きこもり云々は、作中でもときどきツッコミを入れているじゃないですか。

日日日日日日:そのあたりは様式美なんで。『ささみさん@がんばらない』って題名なのに、いや、がんばってるじゃん、というところまでが様式美なんで。今回もがんばってました。

ゆずはらとしゆきゆずはら:兄妹ものに見せかけて実は百合小説になってみたり。

日日日日日日:それもライトノベルの様式美なので……と言っておきたいところですが、単にぼくが引きこもりを描けなくなった、ってだけですね。たまたま好意的に評価されましたけど。なので、『平安残酷物語』は、個人的にはすごく懐かしい気分で書きました。特に小春さんはいろいろありますので、ついつい好意的に書いちゃいますね。書き下ろし分ではすばらしくヒロインになってました。【※04】

ゆずはらとしゆきゆずはら:千葉さんのキャラクターデザインも、すごくヒロインっぽくなっていましたからね。

日日日日日日:千葉さんが描いた小春さんは完全にヒロインキャラですよ。イラストレーターさんが変わると、キャラクターの関係性にも影響が出てきますね。あと、設定と、メインキャラの見た目とかは全然いじれなかったので、その分、サブキャラで遊んだっていう感じですね。「そのへんにある物」で書くというところだけは徹底していたので、手元にある資料から「これで7ページ」ってやりましたけど。それを積み重ねて行ったら、300ページ以上になってしまったという……結局、すごい量を書いてしまった。

ゆずはらとしゆきゆずはら:初稿が届いて、びっくりしましたよ。どれだけ書いてるのよ、このひと、って。

日日日日日日:あとはオカルトが好きなので、それこそ『ジョジョリオン』じゃないですけど、舞台を限定された中で箱物を延々とやりたかったんですね。針山だらけの部屋の中に一人だけ残されて、さてどうやって脱出しよう? というか、脱出していいのだろうか? とか。なんで蟲が出てくるの? なんで天井が開くの? と。チョコレートアソートのように楽しんでいました。箱を開けてみたら、毒が入ってたり、何も入っていなかったり、靴下が入っていたり、という(笑)。

ゆずはらとしゆきゆずはら:連載版とのタイムラグが開いた分、バラエティに富んだ話になりましたね。

日日日日日日:連載時は1か月に1回だったので、容赦なく前の話を忘れるんですよ。そうしてコツコツ重ねていったので、長い付き合いではありますね。連載12回と、あと外伝を1本書きましたから。

ゆずはらとしゆきゆずはら:そういえば、『まんたんブロード』に載った記事をまとめた年間総集編のムックがありましたね。

日日日日日日:それそれ。この子たちもずっとぼくの横にいたので、そろそろ卒業させてあげないとな、って。

【※01】ゆずはらさんが双葉社のwebマガジン『カラフル』で連載していた『雲型の三角定規』という小説のこと。90年代のマイナー漫画業界を舞台にした青春立身群像劇で、ストーリー自体は完全なフィクションですが、アシスタントや漫画原作者をしていた頃に見聞きしたエピソードを参考にしておりました。2012年に双葉社から単行本化されました。イラストは『goodアフタヌーン』で『甘々と稲妻』を連載している雨隠ギドさんです。

【※02】第1回MF文庫J新人賞の編集長特別賞だったシリーズ第1作『蟲と眼球とテディベア』が2005年6月発売で、第6作『蟲と眼球とダメージヘア』が2007年5月発売なので、2年で6冊ということになります。

【※03】探索系の判定ロールにことごとく失敗したため、話の真相にはさっぱり辿り着かないくせに、SANチェックには成功しまくるので、『クトゥルフ神話TRPG』なのに腕力だけで事件を解決する、ろくでもない脳筋プレイになってしまいました。もっとも、日日日さんの黒人モグリ医者は最終決戦で発狂して「ダディ、尻にコケシはもうヤメテヤメテヤメテ……」とか呻いておりましたが……。

【※04】『平安残酷物語』の『まんたんブロード』連載分は、『月刊少年ライバル』で『あしたのファミリア』を描いている樋口彰彦さんがイラストを描かれていました。キャラクターの関係性が単行本版よりもシンプルで、小春さんもこづえのツッコミ役に徹していたので、キャラクターデザインも千葉さんバージョンと比べて、ボケ&ツッコミの役割がはっきりした活動的なデザインでした。ちなみに、樋口さんには『図書館パラセクト』でゲストイラストをお願いしておりますー。

日日日さん、再び、『のばらセックス』を語る

日日日日日日:あと、これは『のばらセックス』の話になんですが、よく、姉に少女漫画とか借りていたので〈運命の少女〉みたいな話がすごく好きなんですよね。誰か憧れの人物がいて、でもそれは偶像で、それはこっちが本物でした、みたいな話。王宮ロマンス的というか、古典少女漫画的なキャラ立ちも好きですね。ただ、ライトノベルで女性主人公はめったに書けないので、『のばらセックス』は思う存分に書きましたよ。美形のお兄さまが三人いて、とか。あ、美青年の兄さんが三人というのは『キャンディ・キャンディ』ですね。

ゆずはらとしゆきゆずはら:結構、少女小説や少女漫画のパロディっぽいことをやりますよね。『小公女』とか。

日日日日日日:うん。世界名作劇場みたいな「ひどい目に遭う運命の少女」が好きなので、とにかくひどい目に遭わせますね。

ゆずはらとしゆきゆずはら:『狂乱家族日記』でも、異形の怪物が『小公女』の真似をしている話がありましたね。

日日日日日日:「リトルプリンセスが巨大な猿」という大変な話を書いてました。作中で登場人物にツッコませたりもしてましたけど。まあ、そういう「少女っぽさ」が好きなんですよ。

ゆずはらとしゆきゆずはら:不完全でいびつな少女性の方に惹かれる、と。普通のライトノベルでは、完全な少女性を装いつつ、男性の都合に最適化されたお人形さんっぽさが求められますけど。【※01】

日日日日日日:『のばらセックス』だと、女性であるというだけで個性になる、という世界観だから、「坂本」というすごく普通の名前にすることで、逆にそのあたりを際立たせようと。そういう世界に、現実の人間基準では普通だけど、ライトノベルのキャラクターとしてはいびつな女性がいると、どうなるのか、っていう。

ゆずはらとしゆきゆずはら:最初のプロットでは、おちばは違う名前でしたよね。

日日日日日日:れもんでしたね。なんでれもんだったんだっけ? のばらの名前に関しては、昔のプロット企画を引き継いでいますので、最初から確定していたんですが、のばらを主人公にはしたくなかったんですよね。絶対的な少女性の権化だから。出すならヒロインか、話の中心ではあるけど主人公ではない。物語のテーマを擬人化している、というのかな。それを、ごく普通の少女がひどい目に遭いながら追っていく。そういう世界観が好きですね。

ゆずはらとしゆきゆずはら:話の真相はのばらが握っているけど、のばらが何なのかは、さっぱり分からない、という。

日日日日日日:たぶん、マクガフィン的なものが好きなんですね。

ゆずはらとしゆきゆずはら:ダウンタウン・ブギウギ・バンドの『港のヨーコ ヨコハマ・ヨコスカ』みたいなものですか。ヨーコという女の行方を辿る歌なんだけど、そのヨーコ自体は歌の中に登場しない。

日日日日日日:どんな例えですか(笑)。そういう漠然とした概念を擬人化しつつ、それを追い求めて。先に〈ジェンダー〉というテーマがあったので、それを考えた上での配置ですね。まず、物語の主題となる心理的な要素があって、それを本人ではないけど近しいもの、として描いたわけです。そして、気がついたら、そのものになっていて、という。更にその上位概念まで行っちゃって「なんで生きてるんだ」とかなんとか言われてしまって、最後、エピローグの直前にその回答を出して、更にもうひとつ……という感じですね。だから、構成的には結構、きれいに入りましたね。エロシーンがなければ、もうちょっと短くなったんですけど、そこはまあ、技術的な挑戦なんで。本筋とは関係ないですね。主題を補強する不可欠な要素ではありますけど。

ゆずはらとしゆきゆずはら:ないのか(笑)。まあ、講談社BOXでできることをやらなれば、面白くないですから。書く方も作る方も。

日日日日日日:そりゃ、講談社BOXで普通のラノベと同じことやっても売れないというか、普通のことをやろうとすると、逆に苦い顔をされるじゃないですか。まったく、ひねくれたレーベルだ(笑)。

ゆずはらとしゆきゆずはら:ただでさえ、一冊作るのに手間暇かかるレーベルですからねえ。普通の文庫レーベルでできることをやっても、もの足りない、と思ってしまうんですよね。逆に、それがプレッシャーになることもあるんですけど。

日日日日日日:そうそう。「面白いことを言え」と言われてから面白いことを言ったり、「変なことをやれ」と言われてから変なことをやるのは、結構プレッシャーなんで。

ゆずはらとしゆきゆずはら:編集さんに言われるだけだったら「ふざけんなバカ」で済むんですけどね。でも、西尾さんの小説とか読んでいると「これじゃまずい」という強迫観念に襲われてしまう。

日日日日日日:やらなきゃ業界から消えてしまうんじゃないだろうか、というね。他のレーベルはむしろ、普通にやらなければならないのに。

ゆずはらとしゆきゆずはら:重篤の中二病患者だけを収容する隔離病棟みたいなレーベルですからねー……。

【※01】小難しいことを言っていますが、要は「美少女に不完全でいびつな自意識なんかあったら、心置きなくエレクチオンできないだろ! そんなもんクラスのリアル女子だけで十分だ! だから、二次元の楽園に住んでいる無量大数の美少女たちよ! もっとこの俺に回転寿司のようなラッキースケベを見せてくれ! この生命が尽き果てるまで! 延々と!」ということです。